東日本大震災。
それは、M9.0という巨大地震と、10メートルを超える大波が沿岸各地を襲う大津波だけに留まらなかった。
福島第一原子力発電所。
放射能漏洩など、あり得ないと高を括っていた日本人の常識を、いとも簡単に地獄へ突き落とす修羅場となってしまった。
地震発生と同時に制御棒が各炉心へ挿入され、原子炉は自動停止。
そこまでは予定通りで安全だと思われた。
せいぜい、配管の亀裂や水漏れ程度で、外部への影響は非常に限られた物であるだろうと皆が思った。
ところが、地震から1日ほど経過するにつれ、原発関連の記事が次第に目に付くようになり、実は原発は停止したものの、安全に核燃料を冷却できる能力を喪失し、緊急事態となっていたのだ。
まずは1号機の炉心の温度が上がりはじめた。核燃料棒が圧力容器内で水面から露出し、燃料棒は自身の崩壊熱で溶け出す温度まで急激に上がりはじめた。
そして、衝撃的な映像とともに報じられたのは、水素爆発による建屋の崩壊だった。
この時、記者会見で爆発したのは建屋であるので、原子炉格納容器は無傷である、心配ないと官房長官は言った。その内容を聞き、国民の誰もがホッと胸をなで下ろしたに違いない。これまでのように、海水を順調に注入していけば、徐々に原子炉が冷え、安定的な状態に向かうと誰もが予測しただろう。
ところが、ここから事態は急激に悪化の一途を辿っていく。
次に異常を示したのは3号機だった。1号機と同じように、建屋が水素爆発を起こし吹き飛んだ。こちらにも海水注入を行って何とか水位を維持しようと試みるも、そのそばから非常用電源で動いていた2号機も燃料切れを起こし、海水注入。
挙げ句は停止していたはずの4号機までもが、使用済み核燃料貯蔵プールから水が蒸発し、三度水素爆発を引き起こした。
高レベルの放射線が放たれる中、まさに命がけで東電職員、自衛隊、警察官、消防官が現場で奮闘し、ヘリからの散水、地上からの散水を行った。
ただ、これは残念ながら、莫大な熱エネルギーを発する核燃料を前に、まさに焼け石に水というべきレベルの物で、核燃料の冷却というのは、きっちり管理された状態で効率的に冷やすシステムがきちんと稼働していないと、安定的な低温状態に持って行くことは難しい。
通常、原子炉の冷却系というのは、三次系の冷却系統まで備わっている物だ。
特に旧型の沸騰水型軽水炉の原子炉は、一次系の冷却水は原子炉圧力容器内で71気圧という高い圧力下で管理されて循環している。なぜ圧力が高いかと言えば、圧力が低いと核燃料に熱せられた水がすぐに沸騰してしまい、効率的に冷却が出来ないからだ。
そして、二次系の冷却水は、一次系の高温高圧な冷却水から熱交換を行い、その熱で水を沸騰させ、その蒸気をタービンに送って発電している。これが原子力発電所における電力のアウトプットとなる。当然、直接原子炉に接した水ではないので、それ自体高いレベルの放射能を帯びていない。
三次系の冷却水は、二次系の冷却水を冷やし、蒸気となった水を、再び液体の水に戻す役割に使われる。これは、主に海水だ。
つまり、これまでの事故後の処理を見ていると、この原則は見事に破壊されていることが見て取れる。東電の説明では、かなり早い段階で原子炉中心部の圧力容器内に海水を注入している。通常、冷却水中に不純物が入っていれば炉を傷めるため、その水は純水が使われるが、今回は水の確保が出来ないため、海水を使った。これは、当然のことながら塩水であるため、内部の金属はすぐにさびてしまい、もうこのような炉は使い物にならない。その覚悟はすでに早い時期からしていたようであるが、この事故は、単に福島原発の再起不能宣言をするばかりでなく、日本の原子力政策の終焉も意味する。
ここで、東京電力がどうのと言ってみても始まらない。今はただ、事態を何とか終息に向かわせるのみに全力を注ぐべきであるが、この事態を見て、安全確保というものは絶対という着地点は存在しないのだと言うことに改めて思い知らされる。
地震直後、全原子炉は直ちに停止した。そして停電になって自家発電によってECCSが正常に機能し、炉心を安全に冷やす事が出来るはずだったのであるが、その電源となるはずだったディーゼル発電機は津波をかぶって機能しなかった。
私は思うに、この時点で、運転中だった3つの原子炉のどれか一つを再起動するか、速やかに近隣の送電設備を引き込み、電力を復活させることが緊急課題であったように思う。
だが、東電は消防車のポンプを使って海水を注入することに一縷の望みを繋ぎ続けた。
停電の中、炉内の圧力や水位などの計器が作動していないにもかかわらず、現場の運転員は手探りで操作を続けざるを得なかった。
結果、炉内のコントロールがうまくいかず、そこに注力している間に他の炉への注意が削がれ連鎖的な原子炉の悪化を招いた。
今はただ、現場で命がけで頑張っている方達に敬意を示すことと祈ることくらいしかできないのだが、とにかく、一刻も早く外部電源の確保を行い、循環器系を復活させることが急務だ。そのあとも、使用済みの核燃料プールへの注水と温度管理、破損した2号機の格納容器、3号、4号機の核燃料プールの遮蔽の修復、高レベル放射能を帯びた瓦礫の撤去とやるべきことは山積だが、まずは危機的な状況の脱出が急務だ。




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